[2020年3月1日] シンガポール首相の2月8日時点での国民に向けたメッセージ

シンガポール首相の2月8日時点での国民に向けたメッセージ(兵庫総合研究所 代表理事の松村さんが日本語訳付きで紹介)です。
日本とは状況が違いますので、今の日本にこれがベストと言っているわけではありませんが、8日の時点で国のトップが科学的知見に基づき、状況説明、今後の見通し等が分かりやすく示しているのは参考になります。

3月1日 シンガポール首相メッセージ。

約2週間、私たちは新型コロナウイルスの拡散という状況に直面しています。
副首相による特別チームが、この状況に対する政府対応を主導してきました。 彼らは毎日新しい展開に取り組んでおり、あらゆる段階で情報提供するために、定期的な記者会見を開催しています。 今日、私はあなたたちに直接話し、私たちがどこにいるのか、そしてこれから先に何があるのかを説明したいと思います。
17年前にSARSの大流行があったおかげで、今回は、新型コロナウィルスに対処する準備がかなり整っていました。 マスクと個人用保護具は十分に備蓄されています。 新しい国立感染症センターを含む医療施設は、拡張され、改善されています。 ウイルス研究の研究力も、より高度になりました。 この状況に対処するために、医師と看護師はよりよく訓練されています。 私たちも、心理的に準備が整っています。 何を期待し、どのように反応すべきかを知っています。 最も重要なことは、我々はSARSを一度克服したことで、これからも問題も解決できるとを知っていることです。

新しいコロナウイルスはSARSに似ていますが、2つの重要な違いがあります。 まず、新しいウイルスは、SARSより感染力があります。 したがって、拡大を止めることは困難です。 第二に、新しいウイルスはSARSよりもはるかに危険性が低いです。 SARSにかかった人の死亡率は約10%でした。 湖北省以外では、死亡率はこれまでのところわずか0.2パーセントです。 これに対して、季節性インフルエンザの死亡率は0.1%です。 したがって、死亡率の観点から見ると、新しいウイルスはSARSよりもインフルエンザにはるかに近いです。

しかし、状況はまだ進化しています。 毎日新しい発見があるため、迅速かつ動的に対応する必要があります。 これまでのところ、シンガポールの発症例のほとんどは、中国から輸入されたものか、輸入された患者に由来するものです。 そのようなケースを発見したら、患者を隔離し、接触のあったものを追跡し、密接な接触先を隔離しました。 これは拡散抑制の意味合いが含まれており、ローカルクラスターの根絶に役立ちました。 しかし、ここ数日、感染の原因を突き止めることができない症例も見られるようになってきました。これは私たちを懸念させました。なぜなら、それは、ウイルスがすでにシンガポール国内で循環していることを示すからです。 これが、昨日DORSCON(感染症警戒レベル)を(4段階のうち上から2番目の)オレンジに引き上げ、対策を強化している理由です。 学校で子供達がお互いに触れ合うイベントを減らしています。 病院へのアクセスを制限しはじめています。 大規模な公共イベントでは、特別な予防措置を講じています。 私自身も、昨日開催されるはずだった旧正月イベントを延期しました。 DORSCONをオレンジに引き上げたことは、以前にもあります。 それは2009年のH1N1豚インフルエンザのときです。 ですから、パニックになる必要はありません。 私たちは街中に厳戒令を発したり、国民が家のなかに留まることを強制していません。 物資は十分にあります。昨日ニュースになっていたように、インスタントラーメンや缶詰、トイレットペーパーを買いに走る必要はありません。

状況がどうであれ、私たちはそれぞれ自分の役割を果たすことができます。 1つ目は、個人の衛生状態を遵守すること。頻繁に手を洗い、目や顔に不必要に触れないようにしてください。 2つ目は、1日2回体温を測定しましょう。 そして3つ目は、具合がよくないなら、混雑した場所を避けて、すぐに医師に相談してください。これらをすることに、それほど手間はかかりませんが、私たち全員が行えば、ウイルスの封じ込めに大いに役立ちます。

現在、患者が接触した人々の追跡を行い、密接な接触先を隔離しています。 しかし、今後数日のうちに、接触先が不明なケースが増えると予想しています。
不明なケースが増え続ける場合、ある時点で戦略を再考する必要があります。 ウイルスが拡散している場合、すべて接触先を追跡することは無益です。 それらすべてを入院させ、疑わしい患者すべてを隔離したら、病院はキャパシティオーバーになります。 その時点で、新しいウィルスの致死率がインフルエンザのように低いままであれば、我々の戦略を変更する必要があります。 軽度の症状しかない患者は、市内のクリニックで診てもらい、大きな病院には行かず家で休むことを奨励します。大きな病院の医療従事者には、最も弱い患者、すなわち高齢者や幼児、合併症のある患者に集中させます。

まだ、その時ではありません。 それは起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。しかし、我々は先を考えて、次のいくつかの段階を予想しています。 そして今、私はこのような可能性があることを、あなたがたに共有しています。起こりうる事態に対して、私たちは心の準備をしています。
私は、今回の新型ウィルスがもたらすであろう医学的結果について過度な心配はしていません。大多数の国民は健康であり続ける、病気になった国民のほとんどは回復するでしょう。これまでの入院患者のうち、大多数は安定した状況か、またはすでに回復しています。 危険な状態にある症例もいくつかありますが、すでに回復して退院した例もあります。

しかし、本当に問われていることは、私たちの社会結束力と心理的な耐性です。 恐怖と不安は、人間の自然な反応です。 私たちは誰でも、新しい未知の病気から、自分自身や家族を守りたいと思うものです。 しかし、恐怖は、ウイルス自体よりも大きな害を及ぼす可能性があります。恐怖にかられると、オンラインで根拠のないデマを流したり、マスクや食料を買い占めたり、ウィルスの流行を特定の人々のせいにしたり、パニックに陥ったり、事態を悪化させたりする可能性があります。 このストレスフルな状況を、私たちは勇気を奮いおこして、一緒に見守っていく必要があります。
それは実際、多くの国民がすでにしていることです。 地域リーダーとチームNila(シンガポール国内のスポーツ団体)によるボランティアチームは、マスクを家庭に配布する活動を始めました。 大学生たちは、寮に隔離された同級生たちに、毎日食事を配膳しています。 医療従事者は、最前線にいます。彼らは病院や診療所で患者を治療し、回復する手助けをしています。 ビジネス連合や労働組合、公共交通機関の労働者は、サービス維持に努め、労働環境を整備し、シンガポールという国の運営を維持するために日々、努力しています。 それらは、私たち全員を支え、励ますインスピレーションです。 これが、私たち、シンガポールです。

新型コロナウイルスの流行に、団結して対峙していきましょう。 予防策を講じ、助け合い、落ち着いて、日常生活を続けていきましょう。