ローカル・ガバメントと教育【市長の学校訪問】

以下、日本教育新聞(2021年2月22日)より抜粋

流通経済大学准教授

坂野 喜隆 氏

ニーズ聞き、教委に問い掛け

 教育は国家百年の大計である。人材の育成は国家の要であり、国家を支える「人」をつくるため、 長期的視点で人を育てることの重要性を説いた言葉である。今回は、この思考に基づいて、教育改革を実践し続ける千葉市を例に取り「ひとづくり」の教育について考えてみたい。

 千葉市の教育は、子どもを中心にして、教職員、学校管理職、そして行政が三角形を描くように連携を進めている。子どものために、それぞれが意見を出し合い、教育を実践している自治体である。また、女性の学校管理職の割合が高く、本市では28.0%である。

 このような教育環境の整備・充実を後押ししてきたのが、熊谷俊人市長である。市長は、「まちづくりはひとづくり」という信念を持ち、教育、子育て支援、児童虐待防止などに力を入れてきた。この言葉は、平成28年に策定された教育大綱にも掲げられた。

 高齢者福祉などに対する政策も重要である。しかし、市長は、今後、高齢者たちを支え、市を担っていく人材の育成を図ってきた。具体策の一つが教育環境の整備であり、市教委と連携をしながら、力を注いできた。

 市長が教育で言う「ひと」とは、子どもだけではない。教育関係者も含まれ、教職員たちが満足した条件の下で働いてこそ、市長は子どもたちがその生き生きとしている姿を見て成長していくと考えている。

学級編成を柔軟化

 平成29年4月から、政令指定都市に県費負担教職員の給与負担等の権限が移譲されることになった。市町村立の小・中学校等の教職員給与費は都道府県が負担し、人事権は都道府県教委にある。

 政令市では、その学校教職員の人事権は政令市の教委にあり、人事権者と給与負担者が異なる状態にあった。この状態を解消するための権限移譲であった。

 このような権限移譲に際し、本市では、市長は、教職員とは異なる角度から、教委に問題を投げ掛けることになった。市長の問い掛けに対して、市教委は独自の改革を始めていく。

 まず、学級編成基準の柔軟化である。本市では、小・中学校の学級編成は独自に設定しており、「少人数学級」と「少人数指導」から学校選択とした。前者は、一学級の人数を減らすことである。後者は、前者を実施せず、複数の教員が役割を分担することで多様な授業を展開することである。

 これによって、学校の実情に応じた学習指導が可能となり、学校独自の取り組みができるようになった。

独自に非常勤配置

 現場に足を運んだ市長が感じたのは、音楽教育の学校間格差である。12学級以下の小学校では、音楽教員を配置できず、音楽教育は、担任が担当してきた。

 市長の問いに対し、市教委は新たな試みを行う。29年度以降、12学級以下の小学校に、専門性の高い音楽指導ができる非常勤講師を配置し、音楽教育を充実した。

 令和2年度から、図工・家庭・体育に拡大した。非常勤講師の配置が市単独事業などで実施されている。教育の質が高まり、学級担任の負担が軽減され、現在、問題となっている教員の働き方改革にも寄与する一助となった。

 いずれも、市長が多くの学校を訪ね、現場の声を聞き、実現した。学校現場のニーズにより、配置した。まさに、現場主義の実践である。

 このように、千葉市における市教委と市長との連携は、現場から教育を変え、子どもたちの未来を切り開くための一つの展望が見えている。現在、国が進めている35人学級は画一的なものであり、それ以外の裁量の余地をなくすものとなっている。このような状況の下で、千葉市が行っていることは、教育の分権を指向する。

 子どもたちの健やかな成長を願うことは異存がない。地域ないし現場は多種多様である。教員がその現場に合わせた教育を実践するために、千葉市の取り組みは、今後の自治体のともしびになるだろう。