第5章 行政に期待される医療とは何か ~医療施策②~

医療特別対談 2
千葉市医師会長 斎藤博明氏・熊谷俊人

※この対談は千葉市医師会報2020年2月号に掲載されたものを再編集して掲載します。

斎藤 お忙しい中、貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます。また、日頃より「市民の方々の健康を守り、地域医療に貢献する」という千葉市医師会の活動につきまして、ご理解とご支援をいただいておりますことを厚く御礼申し上げます。

熊谷 私たち千葉市にとりましては、数ある市内の団体の中でも最も連携を密にとらせていただいているのは医師会でありますし、斎藤会長と役員の皆さまとはいつも意見交換をさせていただいております。市民の医療を守るために日夜ご努力をいただいて、こちらこそ大変感謝いたしております。

斎藤 そのようなお言葉をいただけましたら、会員全員の励みになります。今後ともよろしくお願いいたします。

斎藤 それではまず、「健やか未来都市ちばプラン『人生100年時代』」で健康づくりに関する広報・啓発の一環として決定したロゴマークについてですが、私はものすごく気に入っておりまして…。このデザインには、例えば「夫婦仲良く100年生きること」や「お年寄りとお子さんが共生してゆく」、あるいは「お隣同士の連携」が表われていると思います。すごく印象が穏やかですよね。

「人生100年時代」の広報・啓発のために制作されたロゴマーク

熊谷 ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。私も何案かあった中で、見た瞬間に「これだ!」と思いました。

斎藤 また、デザインされたのは、プロではなく千葉市の専門学校の学生さんであると聞いております。「これからみんなで千葉市で生きていこう」ある意味その象徴だと思います。

熊谷 医師会の皆さまにも「千葉市健康づくり推進協議会」にご参加いただき、この「人生100年時代」をどのようにやっていくのか、という議論をしてまいりました。「市制100周年記念」を強く打ち出すためにも、「人生100年時代」の「〝100〟という数字」とかけて、同じタイミングでやったほうが良いのではないか、ということで進めてきました。

斎藤 おかげさまで千葉市医師会も来年100周年を迎えることになるのですが、千葉市とともに医師会がこれまで歩んでこられましたのは、市の発展と医師会の先輩方が頑張ってこられたからだと思います。

熊谷 千葉市が100周年ということは千葉市医師会さんも100周年ということですよね(笑)。 おめでとうございます。 
 私が一番伝えたいのは、高齢者の方に「人生100年時代」の話を申し上げますと、皆さん嫌な顔をされるのです。実は100年生きるのは大変で、つらいというイメージがあるようです。「自分は 80歳くらいかな」と思っていらっしゃる方が多いのです。しかし、実際には多くの方は、 90歳くらいは生きる時代になっていますので、「100年をポジティブに元気に生きていくんだ、それができる街を一緒に作っていくんだ」というメッセージをしっかり出していきたいと思います。

斎藤 やはり生きていく上では、いくつになっても「生きる目標」は、あったほうが良いと思います。これからは医師会も 〝100〟という数字を意識しながら、市民の健康づくりに力を注ぎたい。そのために、今後も、千葉市と互いに協力しあって一緒に歩んでまいりたいと思います。

斎藤  次に、オリンピック・パラリンピックについてです。

熊谷  そうですね、今まさに新型コロナウイルスのこともあり、感染症については、今まで以上に国民市民の関心が高まっていると思います。
 奇しくも、私が市長になって初めてお会いした団体が千葉市医師会さんで、その理由は「新型インフルエンザ対策」でした。今日の対談に向かう途中、「同じような時機で、なんだか不思議だな」と思いました。

斎藤 東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、医療としましては、一つは今おっしゃられた感染症対策、これは大きな課題です。大勢の外国人を迎え、しかも人々が1カ所に集まっているとなりますと、感染症が広がりやすい機会になってしまいます。今回のような新型のウイルスは、誰も予想できませんから、これはある意味仕方ない部分があるかと思いますが、感染力の強い麻疹や風疹は完全に抑え込むということが大変重要だと思います。

熊谷 オリンピック・パラリンピックを見据えての千葉市独自の感染症対策として、3年前くらいから千葉市医師会の皆さま方と一緒に、「これは千葉市としてやろう」、と行ってまいりました。
 全国に先駆けて麻疹・風疹に対してのワクチン接種の助成事業をやらせていただいて、今、「我々の見ていた視点は間違っていなかったのだ」と、実感いたしております。

斎藤 入江前会長も、そのことは常におっしゃっておられました。
 特に麻疹風疹ワクチン接種につきまして、市長が決断し、やっていただいたということ、医師会としましては大変感謝しております。また、日本医師会にもその重要性を提言していただいたということ、大変誇りに思っております。

熊谷 ありがとうございます。おかげで最近ワクチン接種もだいぶ浸透してきているようです。どのくらいの数字なのか見てみましたら、かなりの方がMRワクチンを接種していることが分かりましたので、少しずつではありますが、感染症対策としての実績が出てきているのかな、と思います。

斎藤 流行に際し、特に気をつけなければならないのは、市立の小学校の教員を含む市の職員等、公の方々かと思います。その方々が職務を通じて感染源とならないよう、防波堤となるべく、抗体価検査をして、抗体価の低い方は予防接種をすることだと思います。千葉市のような大きな組織として取り組めば、自ずと効果がでてくると思います。

熊谷 そうですね。医師会の先生方にしっかりとアドバイスをいただきながら、オリンピック・パラリンピックを見据えて実施していきたいと思いますし、これで抗体価を持っている方が増えれば、その後の感染症の予防にも効果が出るかと思います。オリンピック・パラリ
ンピックのある種「レガシー」が医療面でもできるのではないでしょうか。

斎藤 私も実は、この歳になって初めて抗体価を調べましたところ、風疹の抗体価が低かった。

熊谷 本当ですか?(笑)

斎藤 やはり、こういうことはいつも呼びかけて、やっていかないと実際に接種率は上がっていかないと思います。今後も、医師会としてもこの事業には一生懸命に取り組んでまいりたいと思っております。

熊谷 新型コロナウイルスの対策も万全にとりながら、高まっている感染症予防の意識をうまくワクチン接種に結びつけられますよう、うまく周知ケアに取り組んでまいりたいと思います。

斎藤 オリンピック・パラリンピックを通じて、国際都市として千葉市も認知されてまいります。これにあたり「、受動喫煙問題」は避けて通れない話だと思います。受動喫煙対策がしっかりとできていない都市は、国際都市として認められない…、これは世界中の常識となっていますね。

熊谷 受動喫煙対策は、オリンピック・パラリンピックを見据えて、医師会の皆さんと一緒に実現した、大きな政策だと思います。冒頭の人生100年時代を切り開いていく上でも、絶対にやっていかなければならない対策でしたので、千葉市としては、2020年4月に大きく環境が改善することは、私たちにとっても感慨深いことだと思っております。

斎藤 まずは、市長が先頭に立ってやってくださったことと、市議会がそれをよく理解されて、全会一致で可決されたこと、そして市民の方々にも分かっていただいたこと、これは本当にすばらしいことだと思いました。

熊谷 この受動喫煙対策は、「オール千葉市」で作った画期的な対策だと思っております。オリンピック・パラリンピックという単なるイベント時だけではなく、オリンピック・パラリンピックをきっかけに「正しいけれども普段はなかなか実現しづらい政策」というものが実現できて、それが遺産として残るということだと思います。これも間違いなく2020年の大会がもたらしてくれた健康医療面でのレガシーだと思っております。私たちもあとはしっかり市民に周知し、事業者に丁寧に説明してまいりたいと思います。

斎藤 東京都が先行した形になっておりますが、このことに真摯に取り組んだ結果、千葉市の方が明確な条例になっています。これはすばらしいことだと思っております。

熊谷 制定過程ではT寧に合意をとることができまして、これも医師会の皆さまのおかげだと思っております。また私たちは4月に法や条例を施行して終わりではなく、その実行状況もしっかり見てまいりますので、どの程度決まりが守られるかという点においても、おそらく我々千葉市は模範となることができると思っております。

斎藤 今後とも、私たち千葉市医師会も全面的に協力してまいりたいと思います。

熊谷 尿中コチニン値測定の方も実施しておりますが、検討を始めた当初から「医師会禁煙推進委員会」において助言をいただくことができ、お力添えいただいたおかげでモデル実施が可能になったと思います。

斎藤 やはり一般の方、特に若い方は、我々がタバコの害を言ってもどこまで考えてくださるか分からないのですが、実際にこのコチニン検査で、例えばお子さんの尿からそれが出たとしましたら、「やはりうちも禁煙しようか、しなきゃダメだよね」となると思います。たぶんそれはダイレクトに、喫煙をしている方に伝わっていくと思いますので、これは本当に良い考えだと思います。

熊谷 ありがとうございます、やはりタバコの影響を「見える化する」ことが大事だと思いますので、見える化して、そして対策を立てていく中で、数字が改善していくことが分かってくれば、保護者のためと言うよりも、この条例や規制に懐疑的な方にも、ご理解が広がっていくのではないかなと思います。

斎藤 目に見える形というのは、人にインパクトを与えますから。

熊谷 我々も、 11月に若葉区の小学生を対象に検査を行いまして、2月に結果が出ますので通知をし、そこで禁煙教育をしていきますので、非常に良い施策に取り組めるかなと思っております。

斎藤 続いては災害医療についてですが、昨年は台風 15号・ 19号・ 21号と、千葉市、市原市や南房総市など県内で大変な被害が出ました。昔、千葉というのは、風光明媚なところで、台風がきたことが少ないので、「災害のない街・千葉」などと言っていました。ところが、地球温暖化による気候変動からか、今後千葉に台風が直撃することが少ないとも限らないし、さらに大きな台風がやってくることも考えられます。台風が来るということはある程度事前に分かるわけですから、それに対して対策を立てて、準備をして対応できると思うんですね。もう一つは、震災です。東日本大震災・阪神淡路大震災クラスの、震災に対応する震災対策が必要です。

熊谷 おっしゃる通りだと思います。我々もいよいよ、台風災害に本格的に備える必要があるだろうと思っています。2020年2月末には、東京電力との協定も締結できているかと思います。内容としましては、東日本の自治体としては初めて「倒木の処理を東電と市が協力してスピーディに停電復旧を行う」、「事前に医療機関など優先順位の高いところを確認し合い、そこへ電源車を派遣していただく」ということを含めた協定を、いち早く我々千葉市が締結いたします。それから、あとは先生方の診察もパソコンでシステム化されていますので、やはりこの電源の部分というのもすごく大事だと思っています。今回、我々は太陽光・蓄電池・非常発電など、かなりの施設を整備いたします。それからEV車、この辺りを市内で相当量を確保して、停電している地域に、優先順位の高い、例えば皆さま方の診療所などに、そういうものを派遣させていただいて、電源を供給するというようなビジョンを示させていただきました。

斎藤 市長がおっしゃられたように、今はパソコンで全て作業する時代ですので、いわゆる家庭用の電力があれば何とかなるんですが、それがないと医療ができないという、そういう現代だと思うんですね。是非とも我々医師会としても、やるべきことはしっかり行い、また、行政の方と一緒にやらせていただきたいと思います。また、市長のお考えをお聞きし
て、本当にホッとした気がいたしました。

熊谷 ありがとうございます。我々はとにかく、こうした風水害に最も強い、全国のモデル都市を目指して、これから整備対応していきますので、今後も災害時の医療面で、引き続き勉強させていただければと思います。

斎藤 千葉市医師会としても、災害・台風被害に対応できるよう、頑張って変えていくつもりでおります。それには医師会の会員にもご理解いただいて、ご協力いただくことが必要です。災害に対しては、色々な方面からみんなで一緒になって対応していかないと、なかなか早期の回復はできないと思っておりますので、ぜひともご協力をよろしくお願いいたします。

斎藤 続いて、感染症対策についてですが、風疹・麻疹については先程、申し上げました。

熊谷 今年に関しては、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)ですね。HPVワクチンについて、我々、ちょっと力を入れたいと、今回医師会の皆さんにも相談させていただきました。

斎藤 HPVワクチンは一時期、パッと始まった時期があったのですが、やはり色々な問題があって、何かこう、蓋をされてしまったような形になってしまいました。国や市の政策として、なかなか難しいと思いますが、ワクチン接種は必要だと思います。このワクチンを打たないと、将来、子宮頸がん発症のより高いリスクを持ったまま生きていくということになりますので、女性にとっては大変なことだと思います。特に若い人たちに発症が増えています。これはぜひ、やっていただきたいと思います。

熊谷 市民の皆さんには、しっかりリスクを知っていただく必要があると思います。子宮頸がんの、将来的なリスクをしっかりご理解いただいた上で、ご自身で判断していただく必要があります。定期予防接種の対象年齢を知らないうちに超えてしまったという方々が続出してしまいますので、今後我々は、情報をしっかり発信していかないといけないと思っております。

斎藤 やはりそういう意味では、医師会もよく発症のリスクの説明をして、子宮頸がんについても色々細かい説明をした上で、納得し接種していただくというのが大切ですね。それは我々の使命だと思っております。

熊谷 ぜひお願いいたします。市民の将来の、この医療リスクを軽減するために、ご協力いただければ大変ありがたいと思います。
 あとは、ロタウイルスワクチンも2020年の 10月から定期接種になります。余談ですが、私は自分の子どもにこのワクチンを任意で打っているので、やはり定期接種化は保護者も安心されると思います。

斎藤 ピロリ菌検査についてですが、前回(2016年)の入江会長との対談の中で、「ピロリ菌の検査を」というお話がございました。それから実際に、千葉市で実現していただいたピロリ菌検査が 20歳から 30歳代と若い人たちに導入された。これはなかなか、他ではないですよ。

熊谷 ご評価していただいて、ありがとうございます。

斎藤 若い人たちの胃がんは、今はピロリ菌が関わっていることが多いと言われています。若い時に検査でピロリ菌の有無を確認して、それを除菌し治していくというのは、若年者の胃がんの発症率を下げることにつながります。また、将来的にも子どもに対しての垂直感染を減らすことになります。我々も、他の医師会と色々な会合で話をすることがあるのですが、いつも話題になり「千葉市はすごいね」と言っていただきます。他市に誇れる理想的な医療政策で、我々としても非常にありがたいと思います。

熊谷 まさにこの年齢設定に、千葉市の思いが政策に現れていると思います。将来リスクの軽減、そしてやはり垂直感染ですよね。将来、その方々が親になった時の子どもへの感染、これを防ぐことができれば、この世代で、千葉市における将来の胃がんリスクを大幅に低減できると思っています。実はもう1万人以上の方が受診されて、1600人弱の方が要精密検査になり、実際に除去して、成功した方がもう既に500人以上、いらっしゃいます。

斎藤 これはもう本当に、市長の行動力のおかげだと思っています。

熊谷 いえいえ。医師会の皆さんのご協力、職員の制度設計、また議会のご協力、そういうものがあって、千葉市として先進的に取り組めますので、これから他市に広がっていけば、最終的に日本全体で胃がんリスクの抑制につながる、貢献できるのではないかと思っております。

斎藤 何よりも、予防医学としても、非常に理にかなったことです。

熊谷 本当にそうですね。

斎藤 たぶん、すぐに全国に広がっていくと思います。

熊谷 私もそうなってほしいと思っていますので、積極的に話を進めていきたいと思っています。

斎藤 これは、千葉市医師会員で千葉県医師会の役員をしている方からの話です。「千葉市と千葉県の両方に、たとえば『「地域包括ケア」の立ち上げ』など、同じ医療問題が国からおりてくる、現状では二つの地方自治体が一つの問題に同時に取り組むことになる。しかし結局医師会が協力する際には、千葉市医師会員は千葉県医師会員でもあるわけなので、同じようなことをする同じような会議体の、両方に出席・協力することになる。難しいことは承知しているが、もし千葉市と千葉県の間で少しでも連携し、協力しあえれば、これに関わる全ての人の時間と、さらには経費の節減が可能となり、より効率的になるのではないか?」

熊谷 県と政令市というのはどうしてもかぶる部分があり、そのかぶる部分が良い意味でかぶる、おっしゃった通り、連携して二つの力で一つの問題を解決していくということになるのか。それとも足並みがバラバラで現場の人が両方に関わらなければいけなくなり、エネルギーが二つに分かれてとられてしまうのか。これは県と市の連携の仕方によると思います。そこはやはり政令市としても県にしっかりと歩み寄って、そして県と一緒にやれるものはやりたい、というように思っています。

斎藤 その辺がうまくいくと、もっと効率的に運ぶのでしょうか。

熊谷 おっしゃる通りです。そのためには、県と市のトップが同じ方向を向いて、そして県・市間連携を行い「『政令市と県の二重行政』と言われないようなことをやるんだ」、というような意志とビジョンが必要だと思います。

斎藤 最後になりますが、入江前会長が日頃からおっしゃっていた「常に行政と同じ方向を向いてやっていく」という意志を私もそのまま踏襲しつつ、千葉市と医師会の足並みを揃えて、同じ方向を向いて協力し合ってまいりたいと思っております。もちろん、それは医師会という括りの中での「千葉県医師会と千葉市医師会」という関係においても同じです。

熊谷 我々行政側から見ていても、今の千葉県医師会と千葉市医師会はお互いを尊重した上で、一緒にやっていくものはやっていく、というビジョンが見えておりますので、非常にうらやましいなと思っております。我々行政も、先程のお話のように、県・市がなるべく同じ方向を向いて連携をとり、それに応えてまいりたいと思っております。

斎藤 千葉市医師会は大変幸せだと思っておりまして、まずは市長がご理解とご支援を示してくださっておりますし、また行政の方々も医療のことについて大変努力してくださっています。私たちも、行政の方と色々なことを相談しながら仕事ができており、本当にこのように恵まれた環境でよかったと思っております。

熊谷 そう言っていただいて…。それは本当に私たちも嬉しく、また職員もありがたく思っております。

斎藤 今後とも千葉市医師会に、ご支援とご意見をお願いいたします。

熊谷 一つ一つ長期的なことも含め、取り組んでまいりたいと思います。こちらこそ、よろしくお願いいたします。

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